<トラブルの発生>
円満退社のパート社員が、退職にあたって会社に退職金の支払いを請求する、あるいは、退職後に請求するということがあります。
パート社員にも退職金を支払うルールなら問題ないですが、そうでなければトラブルになります。
<就業規則が1種類しかない場合>
会社の就業規則が作成されたときには正社員しかいなかったのに、やがてパート社員も働くようになっていたとします。
この場合には、将来パート社員も入社してくることを想定して、就業規則が作成されているとは限りません。つまり、正社員用の就業規則しかない状態になりうるのです。
あるいは、就業規則のひな形をそのまま引用して「パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する」という規定を置きながら、「別に定める規則」を作っていなければ、パート社員にも正社員用の就業規則が適用されます。
こうして法的には、パート社員にも正社員と共通の就業規則が適用され、会社に退職金の支払い義務が発生するのです。
<パート社員の定義がない場合>
就業規則に「正社員に退職金を支給する。パート社員には退職金を支給しない」という明確な規定があったとします。
そして退職するパート社員から「私は残業もしたし、休日出勤もしました。退職金が出ないなんておかしいです。私は正社員として働いてきました」と主張されたら、会社は就業規則に示された正社員の定義とパート社員の定義を説明して納得してもらうことになります。
しかし、就業規則に「正社員とは…」「パート社員とは…」という定義が定められていなければ、説明のしようがありません。「何となくわかるでしょ」というレベルなら、労働者に有利な解釈がとられるのが労働関係法令の世界です。
これでは会社が退職金の支払いを拒むことは困難です。
<労働条件通知書に「退職金なし」と書かれている場合>
労働条件通知書、雇用契約書、労働契約書などの名称で、個人ごとに労働条件が通知されています。ここに「退職金なし」と書かれている場合でも安心はできません。なぜなら、労働契約法に次の規定があります。
(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
つまり、就業規則には「退職金あり」と書いてあって、労働条件通知書などに「退職金なし」と書かれていたら、労働者に有利な「退職金あり」が有効になるということです。
<就業規則見直しの必要性>
法令の改正に応じて就業規則を変更していくことは、適法性を保つために必要なことです。
しかし法改正がなくても、市場動向の変化や会社の成長に合わせて、就業規則に見直しをかけていくことは必要です。
トラブルを予防するためにも、年1回は就業規則に目を通すことをお勧めします。
社会保険労務士 柳田 恵一