<年俸制なら残業代は支払い不要か>
プロ野球の選手なら年俸制で残業代の支払いはありません。
しかし一般の労働者には、残業代をはじめとする割増賃金の支払いが必要です。
労働基準法は、時間外労働と休日労働・深夜労働の割増賃金を定めていて、年俸制を例外としてはいません。
この割増賃金の支払いを使用者に義務付ける理由は、法定労働時間と法定休日の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行おうとすることにあります。
この趣旨は、どのような賃金体系であっても変わりがありません。
また、たとえ三六協定書を労働基準監督署長に届け出ていなくても、あるいは協定の限度を超える違法残業であっても、割増賃金は支払わなければなりません。
<なぜ年俸制では割増賃金が割高になりうるのか>
年俸制での代表的な賃金支払い方法には次の2つがあります。
・賞与なし = 年俸額の12分の1を月例給与として支給する
・賞与あり = 年俸額の一部を賞与支給時に支給する
賞与ありの場合には、年俸の16分の1を月例給与として支給し、年俸の16分の4を二分して6月と12月に賞与として支給するといった形をとります。
このうち、賞与ありの支払い方法の場合には、賞与が割増賃金の算定基礎額に含まれるという通達があります。〔平成12年3月8日基収78〕
したがって、月例給与として支給しているたとえば「年俸の16分の1」などではなく、月例給与よりも高い「年俸の12分の1」を基準に割増賃金を計算することになります。
つまり、賞与の年額の12分の1を月例給与に加えたうえで割増賃金を計算するのですから、残業代の支払いが生ずれば、賞与の二重払いが発生する形となるのです。
<残業代込みの年俸制の問題点>
労使の合意で年俸に割増賃金を含むものとする場合についても、上記の通達が基準を示しています。
まず、年俸がいくらで、その中に何時間分の残業代としていくら含まれているのかを、書面をもって合意します。
基準となる残業時間と、それに対応して計算された残業代を明確に示す必要があります。
そして、1月当たりの基準残業時間を超える残業が発生した月には、その都度不足分の残業代を月々の給与と共に支払うことになります。
ただし、深夜労働や休日出勤の割増賃金は別計算となります。
通達というのは、行政の法令解釈指針ですが、最高裁もこの基準を繰り返し適法要件と判断しています。
最近も、医師の割増賃金について、最高裁の判決が出ています。〔医療法人社団康心会事件、最二小判平成29年7月7日〕
しかし、この判決は新たな判断を示したものではなく、年俸1,700万円という高額の報酬を約束された医師であっても、残業代の支払いは必要であり、残業代込みの年俸にするのであれば、一般と同様のルールに従う必要があることを確認しているに過ぎないのです。
社会保険労務士 柳田 恵一