年次有給休暇を取得する社員の解雇

年次有給休暇を取得する社員の解雇

<年次有給休暇を使わせる義務>

労働基準法には、年次有給休暇について次の規定があります。

 

(年次有給休暇)

第三十九条 5 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない

この規定の中の与えなければならないというのは、文脈からすると、権利を与えるということではなく、使わせるという意味であることが明らかです。

そして、この義務に違反した場合の罰則としては、次の規定があります。

 

第百十九条 次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

たとえば、「再来週の水曜日に年休を使いたいのですが」と申し出た従業員に対して、使用者が「有給休暇を使うなんてダメだ」と答えれば、法律上は懲役刑もありうるということになります。

しかし、刑罰は国家権力と使用者との関係で規定されるものです。一方、請求により年休が使えることになるかという、使用者と労働者との関係は民事関係です。刑罰の存在と、年次有給休暇請求の効力とは別問題です。

つまり、「再来週の水曜日に年休を使いたいのですが」と申し出た従業員に対して、使用者が「有給休暇を使うなんてダメだ」と答えた場合、その従業員が当日会社を休んだ場合にどうなるかは、罰則の存在とは別に考える必要があります。

そしてこの場合、正しい手順を踏んでいないため、年次有給休暇を使ったことにはなりません。無断欠勤になってしまいます。

 

<年次有給休暇を使った人の解雇>

年次有給休暇を使ったことを理由に、不利益な取扱いをすることは、労働基準法の規定により禁止されています。

 

第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

 

この条文の解釈については、最高裁判所が次のような判断を示しています。

 

「労基法136条それ自体は会社側の努力義務を定めたものであって、労働者の年休取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を持つとは解釈されない。

また、先のような措置は、年休を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、労基法136条の効力については、ある措置の趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度年休の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年休を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効(民法90条)とはならない」〔沼津交通事件 最二小判平5.6.25〕

 

年次有給休暇を使ったことを理由に解雇するというのは、解雇により労働者が失う経済的利益の程度、年休の取得に対する事実上の抑止力は甚だしいですし、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものですから、公序に反して無効(民法90条)になると思います。

結論として、年次有給休暇の取得を理由とする解雇は無効だと考えられます。

 

社会保険労務士 柳田 恵一