人手不足を反映した中小企業の賃金引上げ

人手不足を反映した中小企業の賃金引上げ

<平成29年度の賃金引上げ>

経済産業省が実施した平成29年「中小企業の雇用状況に関する調査」によると、今年度賃金の引上げを実施した中小企業の割合は、正社員で66.1%、非正規社員で36.5%となり、昨年度より増加しています。

賃金を引上げた企業の引上げ理由のうち、最も多かったものは、正社員、非正規社員ともに「人材の採用・従業員の引き留めの必要性」(正社員42.9%,非正規社員47.0%)でしたが、非正規社員では、「最低賃金引上げのため」(38.3%)が次いで多かったそうです。

 

<政府の政策>

政府は、デフレに歯止めをかけ経済を活性化するためには、給与水準を上昇させる必要があると考えています。

収入が増えれば支出も増え、景気が良くなるというわけです。

 

<人手不足の影響>

経済学者の間では、この数年、人手不足の割には給与水準が上がってこないが、その原因がはっきり分からないと言われています。

人手不足であれば、より良い人材を獲得するために、企業がより多くの給与を支払うはずなのに、現実にはそのような傾向が強くないというのです。

それでも、「人材の採用・従業員の引き留めの必要性」が賃金引上げ理由のトップとなっています。

今後は、理屈通りに給与水準が上昇していくことも予想されます。

 

<最低賃金引上げの影響>

非正規社員については、最低賃金引上げが給与水準の上昇に直結していると言えるのではないでしょうか。

最低賃金の引き上げは毎年行われていますし、その上昇は、企業の通常の昇給幅を上回っています。

これによって、今年度採用した新人だけでなく、2年前、3年前に採用した非正規社員の昇給も、最低賃金法により強制的に行われることになります。

しかも、たとえば東京都の最低賃金は1時間当たり958円となったのですが、新人も3年前に入社した非正規社員も958円というのでは、3年前の入社組が納得できません。3年間の実績と経験を無視して新人と同じ給与では、不合理だと考えられるからです。

こうして、最低賃金額の引上げ以上の人件費上昇が見られるのです。

非正規社員の人件費が高騰したために、正社員の昇給は見送らざるを得ないという企業も出てきています。

 

<最低賃金上昇の逆効果>

10年前、東京都の最低賃金は739円でした。

当時は採用面接をしてみて、時給800円程度の働きをしそうな応募者を、時給750円で採用できれば企業としては助かっていました。

ところが今、時給800円の働きをしそうな応募者は魅力的ではありません。

採用を見送って、「もっと良い応募者」が来るのを待とうということになります。

こうした動きをする企業では、人手不足クライシスに陥ります。

一方で、10年前には採用されたであろう多くの応募者が働けずにいるということも考えられます。

 

<利は教育にあり>

むしろ、時給800円程度の働きをしそうな応募者を時給960円で採用して、時給1,000円以上の働きができるように育てることを考えるべきです。

教育指導によって新人の能力を高めることが、企業にとって利益が大きいのは当然ですが、本人も自分の成長を喜び育ててくれた会社に感謝しますから定着率も高まるのです。

「利は仕入れにあり」という言葉があります。これは商売の鉄則を表す言葉です。

しかし、今や「利は教育にあり」と言えるのではないでしょうか。

 

社会保険労務士 柳田 恵一