<労働契約法に出てくる「客観的」>
労働契約法には、「客観的に」という言葉が3回出てきます。〔15条、16条、19条本文〕
いずれも懲戒、解雇、雇い止めという重要な条文です。
しかし、ここでいう「客観的に」という言葉がどういう意味なのかは、労働契約法の中に説明がありません。
法令に出てくる基本的な用語の意味が確定していないと、私たちが具体的な事実に当てはめて考えることが難しくなってしまいます。
<辞書の説明>
「客観的」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。
大辞林 第三版
個々の主観の恣意を離れて、普遍妥当性をもっているさま。
デジタル大辞泉
主観または主体を離れて独立に存在するさま。
特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。
辞書ですから、様々な場所で使われている「客観的」に共通する意味を表示しているのでしょう。
法令の中にある日常用語を解釈するときには、どうしても自分の立場で解釈してしまいます。
特に労働関係法令であれば、使用者の立場と労働者の立場が対立します。
使用者の主観による解釈と労働者の主観による解釈が対立するのですから、「客観的に」と言われても困ってしまいます。
<たとえば解雇について>
労働契約法は、解雇について次のように定めています。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
とても抽象的な表現です。
ですから、使用者が労働者を解雇しようとしたときに、それがこの規定に触れて無効になってしまうのか、それとも有効になるのかを判断するのは困難です。
そして、労働契約法のすべての条文や裁判例を参考に考えると、この労働契約法16条の「客観的に」というのは、「裁判官の判断によれば」という意味に理解するのが最適だと思われます。
裁判官の判断が基準ということであれば、法令の条文を読んで辞書を引いても、ほとんどの場合には分からないことになります。
結局、具体的な事例に照らして関連する裁判例を確認して、その意味するところを確定しなければなりません。
こう考えると、「客観的」の意味を日常的な意味でとらえるなど、素人判断は危険だということになります。
ですから、解雇などを検討する場合には、労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談する必要が出てくるということになるでしょう。
社会保険労務士 柳田 恵一