<正社員の手当廃止>
次のようなニュースがありました。(2018年4月13日朝日新聞デジタル)
日本郵政グループが、正社員のうち約5千人の住居手当を今年10月に廃止することがわかった。この手当は正社員にだけ支給されていて、非正社員との待遇格差が縮まることになる。「同一労働同一賃金」を目指す動きは広がりつつあるが、正社員の待遇を下げて格差の是正を図るのは異例だ。
このニュースは、次のように締めくくっています。
日本郵政グループの今回の判断で、正社員の待遇を下げて対応する企業が広がる可能性がある。
<同一労働同一賃金>
働き方改革関連法案にも、同一労働同一賃金が盛り込まれています。
また、厚生労働省のガイドライン案にも、通勤手当や食事手当といった各種手当の処遇差は認められないことが示されています。
これらは、正社員と非正社員の処遇について差別がある場合に、非正社員の処遇を正社員の水準に引き上げることを原則としています。
ところが、このニュースでは、正社員の手当の一部を廃止することによって、非正社員との処遇の差を解消することが報じられています。
<不利益変更の禁止>
コンビニで飲料を買うような売買契約であれ、労働契約であれ、一方の当事者が自分に有利に契約内容を変更するのは自由ではありません。それが許されるなら、そもそも契約そのものが成立しません。
労働条件の不利益変更というのは、使用者から労働者に一方的に変更を申し出る場合を想定していますので、禁止されるのは当然のことといえます。
ただ、コンビニでのお客様とお店との売買契約は1回きりのことですし、商品の引き渡しと代金の支払いが同時です。こうした売買契約は、後から問題になることが少ない性質を持っています。
ところが労働契約は、労働者と使用者との継続的な関係ですし、給与は後払いですから、何かとトラブルが発生しやすく長引きやすいのです。
そこで、労働者の保護という労働関係法令全体の趣旨を踏まえ、特に労働条件の不利益変更禁止の原則が強調されているわけです。
<不利益変更が許される場合>
今回のニュースのような、正社員の手当の一部廃止は、一定の条件を満たせば適法に行うことができます。
基本的には、労使の合意によって行うことができるのです。〔労働契約法8条〕
しかし手当の廃止は、給与の減額を意味するのですから、正社員が手当の廃止に合意するような、客観的にもっともな事情が無ければ安易に認められません。
また、正社員の合意は、自由な意思による合意であることが必要ですから、「合意しないと○○」「みんな合意しているぞ」など、強い調子で迫られてやむを得ず合意したのでは、合意が有効にはなりません。
日本郵政グループでは、会社側と組合側とで十分に話し合い、手当の廃止後も10年間は一部を支給する経過措置を設けるなどの条件が付いたことで折り合った形です。
労働組合が無い会社で、会社の一方的な説明によって、手当を廃止するような乱暴なことが許されるわけではないのです。
【参考】労働契約法
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
社会保険労務士 柳田 恵一