懲らしめるだけが懲戒規定の目的ではありません。全社員がこのことを忘れぬよう、個別の懲戒規定の前に目的規定を置きましょう。
<懲戒規定の目的1>
社員を懲戒する目的の第一は、懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすることにあります。
懲戒処分を受けた社員に対しては、深く反省し二度と同じ過ちを犯さないように注意して働くことが期待されています。
これは、不都合な結果の発生を予見して回避する能力はあるのに、故意あるいは明らかな不注意によって、不都合な結果を発生させたことが前提となっています。
しかし、能力不足で不都合な結果が発生した場合には、反省しても結果を防止できません。能力不足に対して会社は、懲戒処分ではなく教育研修で対応する必要があるのです。
<懲戒規定の目的2>
社員を懲戒する目的の第二は、会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすることにあります。
たとえば、明らかなパワハラやセクハラがあって、会社がその事実を知りながら放置しているようでは、社員が安心して働くことができません。一般の道義感や正義感に反しますし、自分も被害者となる恐怖を感じるからです。これでは、会社に対する不信感で一杯になってしまいます。
<懲戒規定の目的3>
具体的でわかりやすい懲戒規定を設けることは、社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持することを目的としています。
何をしたらどの程度の処分を受けるのか、予め知っておくことにより、伸び伸びと業務を遂行することができるのです。
これは、罪刑法定主義の考え方です。ある行為を処罰するためには、禁止される行為の内容と処罰の内容を具体的かつ明確に規定しておかなければならないとする原則です。日本国憲法31条と39条にもその趣旨が示されています。
対置される概念は罪刑専断主義です。たとえば「社長を怒らせたら懲戒処分」という考え方です。こんなことでは、社員はいつも不安です。
そもそも、懲戒規定に定めの無い行為について懲戒処分をしても無効となり、会社は対象社員に損害賠償の責任を負います。しかし、それ以上に他の社員に対する悪影響が大きくて、会社全体の生産性が低下します。
たとえば、ある社員が作業の問題点を指摘し、改善提案をしたとします。これを不快に思った会社側が、不当に懲戒処分を行ったならば、その職場での改善は進まなくなってしまいます。
懲戒規定に具体的な定めのない行為を行っても、懲戒処分の対象とされることはないのだという安心感に基づいて、伸び伸びと勤務できる環境が会社の成長を促すのです。
社会保険労務士 柳田 恵一