<社員とは限らない被害者・加害者>
多くのハラスメントは社員同士で問題となります。
社内のハラスメントを放置することは、会社にとって明らかにマイナスですから、積極的な対応をすることに躊躇する理由はありません。
しかし、お取引先の社員からのパワハラ・セクハラであれば、今後の取引関係を考えて、事なかれ主義に走ってしまう危険があります。
社員が被害者となった場合には、社長自らあるいはしかるべき代理の方が、お取引先に出向いてハラスメントの事実を確認し、事実があれば取引関係を解消することまでを視野に入れた毅然とした態度が必要です。
お取引先も理解を示さざるを得ませんし、社員は会社の態度に共感するでしょうし、こうした情報が外部に漏れても会社に対する批判は生じないでしょう。
むしろ長い目で見れば、会社にとってのプラスが大きいといえます。
反対に、社員からお取引先に対するパワハラ・セクハラが行われたのではないかという疑いが生じたら速やかに事実を確認し、真実であったなら、社長自らお取引先に出向いてハラスメントの事実について報告とお詫びをする必要があります。
<そもそもパワハラ・セクハラなのか>
厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)では、パワハラの禁止について次のように規定されています。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
この中の「職場内」という言葉が端的に示しているように、社内での発生が想定されています。
ですから、加害者・被害者が取引先など社外の人間である場合には、本来のパワハラやセクハラの定義には当てはまらないかもしれません。
しかし、加害者・被害者が社内にとどまらなくても、客観的に見れば人権侵害(嫌がらせ)であることに変わりはありません。
多くの場合、慰謝料を含めた損害賠償請求の対象となりますし、内容によっては犯罪となり刑法で罰せられることもあります。
ですから、これを防止すべきこと、万一発生したら善処すべきことに違いはありません。
<取引先との間でのパワハラ・セクハラの定義>
上に掲げたモデル就業規則第12条をアレンジして、取引先との間で発生するパワハラを定義するならば、次のようになるでしょう。
「取引関係上の地位や人間関係など、取引関係上の優位性を背景にした、取引の適正な範囲を超える言動により、取引先の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなこと」
また、取引先との間で発生するセクハラを定義すると、次のようになるでしょう。
「性的言動により、取引先の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなこと」
これらをパワハラ・セクハラの定義に加えるかどうかは、見解の統一が見られませんが、就業規則には規定しておきたいところです。
具体的には、取引先へのハラスメントを禁止し、懲戒規定も置くということです。
また、社員を守るため、取引先からのパワハラ・セクハラが疑われる事実があれば、上司や社内の相談窓口に報告することも規定すべきです。
どちらも、社員と会社を守るための規定ですから、ぜひ就業規則に加えておくことをお勧めします。
社会保険労務士 柳田 恵一