<就業規則の規定>
厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)では、定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例として、次のような規定が示されています。
(定年等)
第49条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。
定年後の再雇用については、多くの企業で似たような規定を置いていると思われます。
<本人の希望>
「定年後も引き続き雇用されることを希望」の部分に、トラブルの原因が隠れています。
定年退職後に、退職者から「再雇用を希望していたのに退職させられた。これは不当解雇である」と主張されることがあります。
具体的には、再雇用されていれば得られたはずの賃金と慰謝料の支払いを、会社に対して求めてくるわけです。
このとき、会社が「離職票に署名してある」と主張しても、退職者は「ハローワークで手続きできなくなると脅されて不本意ながら署名したに過ぎない」と反論するでしょう。
また、健康保険証の返却についても、退職者が「返却しなくても紛失扱いで手続きすると言われたので不本意ながら返却した」と主張するかもしれません。
このような言った言わないの争いを防ぐために、再雇用の希望を書面で提出するルールにしている会社もあります。
しかし、会社側が提出を受けていないのに、退職者が提出したと主張すれば、結局トラブルになってしまいます。
こうしたトラブルを防ぐためには、「再雇用確認書」のような書式を準備しておき、定年の3か月前までに希望の有無を記入して提出してもらうなどの運用にする必要があります。つまり、希望しても希望しなくても、定年を迎える社員から所定の書面を提出してもらい、再雇用の希望の有無がわかるようにしておくわけです。
<再雇用できない理由>
たとえ本人が希望しても、「解雇事由又は退職事由に該当」する労働者であれば、会社は再雇用を拒めるという部分にも、トラブルの原因が隠れています。
そもそも、定年を迎える直前になって解雇事由が発生することは稀ですし、このタイミングで退職事由が発生するというのは、本人が再雇用されずに退職したいという希望を表明している場合ではないでしょうか。
実際には、定年の数年前から解雇事由があって、会社側がこれを放置しているというケースがあります。「あと少しで定年を迎えるから」ということで我慢しているわけです。
たとえば、健康状態が不良でたびたび欠勤しているが治療を受けていない、ルール違反が多くて同じ部署のメンバーに迷惑をかけ続けている、新しい仕事を覚えられず会社が必要としている業務をこなせないといった事情を、会社側が我慢してしまうのです。
こうした場合に、定年と共に普通解雇や懲戒解雇を言い渡すというのは不合理です。本人にしてみれば、今まで不問に付されていたのに、定年のタイミングで解雇されるというのは納得できません。
あと少しで定年を迎える社員についても、若い社員と同じように、問題点があれば注意・指導し改善が見られなければ、普通解雇や懲戒解雇を検討すべきです。
少し厳しいようにも思われますが、再雇用トラブルを防ぐには必要なことなのです。
社会保険労務士 柳田 恵一