平成30年版『労働経済白書』から分かること

平成30年版『労働経済白書』から分かること

 

平成30(2018)年9月28日、厚生労働省が閣議で「平成30年版労働経済の分析」(「労働経済白書」)を報告し公表しました。

 

<労働経済白書の趣旨>

「労働経済白書」は、雇用、賃金、労働時間、勤労者家計などの現状や課題について、統計データを活用して分析する報告書で、今回で70回目の公表となります。

少子高齢化による労働供給制約を抱える日本が、持続的な経済成長を実現していくためには、多様な人材が個々の事情に応じた柔軟な働き方を選択できるように「働き方改革」を推進し、一人ひとりの労働生産性を高めていくことが必要不可欠です。

そのためには、資本への投資に加えて、人への投資を促進していくことが重要です。

平成30年版では、こうした認識のもと、働き方の多様化に対応した能力開発や雇用管理の在り方についてさまざまな視点から多面的な分析が行われています。

【白書の構成】

第Ⅰ部  労働経済の推移と特徴

第Ⅱ部

第1章  労働生産性や能力開発をめぐる状況と働き方の多様化の進展

第2章  働き方や企業を取り巻く環境変化に応じた人材育成の課題について

第3章  働き方の多様化に応じた「きめ細かな雇用管理」の推進に向けて

第4章  誰もが主体的にキャリア形成できる社会の実現に向けて

 

【白書の主なポイント】

・企業が能力開発に積極的に取り組むことが、翌年の売上高や労働生産性の向上、従業員の仕事に対するモチベーションの上昇などのプラスの影響を与える。

・多様な人材の十分な能力発揮に向けて、能力開発機会の充実や従業員間の不合理な待遇格差の解消など「きめ細かな雇用管理」を推進していくことが重要である。

・人生100年時代が見据えられる中、誰もが主体的なキャリア形成を行うことができる環境整備が重要であり、自己啓発の実施促進に向けては、金銭的な援助だけでなく、教育訓練機関等の情報提供やキャリアコンサルティングを実施することが、有効な取組となり得る。

 

<働き方改革>

働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。

そのためか、働き方改革に関連した事項について誤った運用がなされると、そこばかりがクローズアップされて、悪いものであるかのように報道されてしまいます。

「副業・兼業の促進と言ってこれ以上働かせるのか。長時間労働の話はどうなったのか」

「働き方改革って、要は少ない賃金で働かせ放題にすることでしょ」

街頭インタビューでは、こんな発言が多くなってしまいました。

 

しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ労働生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。

労働生産性を向上させるには、より少ない労働時間で、より大きな成果を目指すことになります。また、この結果として、労働者にはより多くの報酬が与えられなければなりません。そうでなければ、らせん階段を駆け上がるような、良い循環は生まれないからです。

 

働くのは人間ですから、ある程度の時間働き続ければ、肉体的精神的疲労が蓄積して効率が低下してきます。

しかし、休憩や休暇によってリフレッシュできれば、体力と気力が回復して生産性が高まります。

適切な労働時間で働き、ほどよく休暇を取得することは、仕事に対する社員の意識やモチベーションを高めるとともに、業務効率の向上にプラスの効果が期待されます。

 

これに対し、長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性も高まりますし、生産性は低下します。

また、離職リスクの上昇や、企業イメージの低下など、さまざまな問題を生じることになります。

企業経営の観点からも、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進が得策です。

 

社員の能力がより発揮されやすい労働環境、労働条件、勤務体系を整備することは、企業全体としての生産性を向上させ、収益の拡大ひいては企業の成長・発展につなげることができます。

 

<人への投資>

かつて、「人財」という言葉が持てはやされました。

働き手が会社経営にとって財産であるという捉え方をして、「人材」ではなく「人財」だとされたのです。

企業の利益の源は「人財」である、企業は積極的に「人財」に投資すべきであると説かれました。

 

こうして一時的に、新人研修、○年目研修、幹部研修などが盛んに行われるようになったのですが、いつの間にか中小企業を中心に研修が少なくなってしまいました。

職場を離れての集合研修も重要なのに、働く現場でのOJTだけになっている企業も増えています。(OJTは、On-the-Job Training の略)

 

しかし、労働生産性の向上のためには、「人財教育」をはじめ、人への投資を促進していくことが不可欠となっています。

過去に社内で行われていて、現在は行われていない教育・研修があれば、再度その必要性を検討し、改善したうえで復活させることをお勧めします。

 

社会保険労務士 柳田 恵一