<パワハラの定義からすると>
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など「職場内での優位性」を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、または、職場環境を悪化させる行為をいいます。
これが厚生労働省による説明です。
パワハラを行う者が、直接被害者に働きかけることは条件に含まれていません。
また、厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)では、次のように規定されています。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。 |
これらのことからすると、直接被害者に向けられた行為でなくても、パワハラとなりうることが分かります。
<パワハラの構造からすると>
パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。
・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など
・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)
行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社の意向を受けて行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。
こうして見ると、ただ単に陰口を叩くような場合、業務上必要の無い雑談の中で悪口を言っているに過ぎない場合には、パワハラに該当しない場合が多いといえそうです。
<業務上不要な人権侵害行為>
パワハラで問題となる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。
・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉棄損、侮辱、業務妨害など
・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど
これらの人権侵害行為は、業務と無関係に行われれば、パワハラの定義にはあてはまらなくても、国家により刑罰を科され、被害者から損害賠償を請求されることがあります。
<悪口を言うと成立しうる犯罪>
名誉毀損罪〔刑法230条〕は、公然と事実を摘示して名誉を毀損することで成立します。「摘示」というのは、あばくこと、示すことです。示した事実は、原則として、真実であっても嘘であってもかまいません。
「公然と摘示」するのが条件ですから、他の人には知られないように、直接の相手だけに事実を摘示した場合には成立しません。
それでも、噂を流すのが大好きな人に広めてもらう意図で、口止めせずに事実を適示した場合には、名誉毀損罪が成立することもあります。
社会保険労務士 柳田 恵一