<消えない誤解>
「部長や課長は管理監督者だから、労働基準法41条によると残業手当や休日手当は支給対象外だし、休憩時間も対象外でタイムカードも要らない」
大企業では、こうした誤解はすでに解消されているでしょう。しかし、いまだに勘違いしている企業も多いのは何故でしょう。
<魔法のことば>
「管理監督者」には2つの意味があります。
【2つある管理監督者の意味】
法 令 | 分 野 | 管理監督者の意味 |
労働基準法など | 労働条件、労務管理 | 労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者 |
労働安全衛生法など | メンタルヘルスを含む健康管理、安全、衛生 | 職場環境や部下の健康、労働安全、労働衛生に配慮すべき管理職 |
ネットで「管理監督者」を検索すると、主に労働基準法の解釈に関する事項が出てきます。
・労働基準法における 管理監督者の範囲の適正化のために – 厚生労働省
・しっかりマスター労働基準法 管理監督者編 – 東京労働局
・「管理監督者」 – 確かめよう労働条件 – 厚生労働省
・「管理監督者」の範囲の適正化に関するQ&A – 厚生労働省
ところが、「管理監督者研修」を検索すると、労働基準法とは直接関係のない記事が出てきます。
・心の健康づくりの研修のために (管理監督者編) – 人事院
・メンタルヘルス対策って、 具体的には何するの? – 愛知県
・管理監督者・職場リーダーのためのラインケアセミナー – 東京労働基準協会
これらの中で「管理監督者」は、「管理職」という意味で使われています。
後ろに「研修」を加えただけで、「管理監督者」の意味が違ってくるのは不思議です。
しかし、経営者と一体的な立場にある労働基準法上の「管理監督者」は、部下の管理・指導ではなく、経営に関わっている者なので、研修の対象者には馴染まないことが理由だと考えられます。
<使い分けをどうするか>
「管理監督者」について規定しているのは、労働基準法41条2号の条文です。
【労働時間等に関する規定の適用除外】
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者 |
この中の「監督若しくは管理の地位にある者」というのが、「管理監督者」の語源です。
これに対し、労働安全衛生法は、労働者の安全・衛生を管理する者として、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者等について定めています。
しかし労働安全衛生法では、職場における労働者の安全と健康について第一に責任を負っているのは事業者とされています。
【事業者等の責務】
第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。 |
ここで事業者とは、会社の場合、会社そのものです。
実際には、経営者の他、経営者から権限を与えられ責任を負わされた管理職が、事業者である会社の手足となって労働者の安全と健康の確保に努めることになります。
混乱を避けるため、労働基準法41条の厳しい条件を満たすような、取締役に準ずる労働者に限定して「管理監督者」と呼び、その他の部長や課長などは「管理職」と呼んで区別してはいかがでしょうか。
社会保険労務士 柳田 恵一