<具体的な事例>
ある若者が、多店舗展開をしている大手企業の新店で働き始めた。
オープン当初は、年中無休としていた。
月曜日と水曜日はダンスのレッスンがあり、この2日を除き週5日、1日4時間の勤務という約束だった。
ところが突然、本社の決定で毎週火曜日が定休日になった。
この若者は、週4日しか働けなくなり、社会保険も雇用保険も資格を失うことになった。
こうした変更は、「不利益変更」となり法的に許されないのではないか。
<不利益変更禁止の原則>
「合理的理由がない限り、労働条件を一方的に不利益になるように変更できない」
これが、不利益変更禁止の原則です。
この原則に違反して労働条件の変更を通告しても、その変更は無効ですから労働条件は元のままということになります。
しかし、毎週火曜日は定休日ですから出勤できません。これは、会社都合で働けないのですから、本来の賃金の6割以上の休業手当が支払われなければなりません。
<合理的理由がある場合>
不利益変更禁止の原則には、「合理的理由がない限り」という条件が付いています。
合理的理由があれば、労働条件の変更も無効になるとは限りません。
上記の例では、採用されるにあたって「月曜日と水曜日はダンスのレッスンがあるので出勤できない」という説明をしていなかった。そして、店長から「火曜日は店休日なので、月曜日か水曜日に働きませんか」と言われた。ここで初めてダンスのレッスンの話を持ち出した。このような事情があれば、合理的な理由は認められやすくなります。
また、会社全体で年次有給休暇の取得率を高める方針で、定休日を設けることにしたのであれば、これにも合理的な理由があったと認められやすいでしょう。
<トラブル防止のために>
基本的な労働条件については、「労働条件通知書」などの交付によって、使用者から労働者に通知されます。
この「労働条件通知書」には、労使の合意内容が記載されるのですが、出勤日を「日、火、木、金、土曜日」と書くか、「週5日勤務(シフト制)」と書くかによって、大きな違いを生じます。
出勤日を「日、火、木、金、土曜日」と記載した場合に、会社都合で火曜日を勤務できない日にしてしまうと、休業手当の支払いが必要になります。
「週5日勤務(シフト制)」と記載した場合には、特定の曜日に勤務できないのは、原則として、労働者側の都合によるものであり休業手当の支払いは不要となります。
また、働いている人たちの都合を考えれば、なるべく早い時期に、定休日を設ける理由を具体的に説明しておきたいところです。
ただ、いくら明確に説明しても「売上が落ちてきたから」「退職者が多く、求人広告への応募者が少ないから」というのでは、経営努力の問題とされ合理的な理由があるとは認められにくくなってしまいます。
定休日を設ける場合、いくつもの理由が重なった上でそうするのですから、合理的な理由を中心に説明することが求められています。
<円満解決>
最初に挙げた事例では、定休日には仕事が無いという前提で、解決策を探るのが一般です。
しかし、店舗の休業日であっても、商品陳列ケースの徹底清掃、POP作成・交換、レイアウトや棚割りの変更などの業務を行うことは可能ですし、むしろ休業日に行うことが望ましい業務もあると思われます。
ここまで深く踏み込んだうえで話し合いを行えば、たとえ理想的な結論にたどり着けなくても、納得のいく円満解決が期待できるのではないでしょうか。
社会保険労務士 柳田 恵一