医師の働き方改革と産業医への配慮

医師の働き方改革と産業医への配慮

<医師の睡眠確保>

「働き方改革実行計画」(平成29(2017)年3月28日働き方改革実現会議決定)を受けて、厚生労働省が設置している「医師の働き方改革に関する検討会」が、平成30(2018)年12月14日、医師の睡眠確保の重要性を踏まえ、医師の労働時間短縮に向けた取組の着実な実施を求める声明を取りまとめ公表しました。

この検討会は、医師に対する時間外労働規制の具体的な在り方、労働時間短縮策等について議論を重ね、今年の2月には「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」をとりまとめています。厚生労働省は、都道府県等を通じて緊急対策を周知し、医療機関に対し医師の労働時間短縮を行うよう求めてきました。

同検討会では更に議論を重ね、医師の健康確保について、睡眠の重要性をエビデンス(効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果)に基づき議論する中で、勤務医が一定の睡眠を確保できる労務管理の重要性が改めて確認されたことから、勤務医の睡眠確保のためにも、緊急対策に掲げた医師の労働時間短縮に向けた取組を確実に進めることを求めています。

医師の睡眠確保に有効と考えられる取組として、タスク・シフティング(業務の移管)の推進、産業保健の仕組みを活用した睡眠不足医師のスクリーニングと把握された睡眠不足医師への配慮、当直明け負担軽減や勤務間インターバル確保が示されています。

厚生労働省は、この内容を都道府県や病院団体等を通じて今年2月の緊急対策とあわせて各医療機関に周知するとともに、緊急対策の内容について、この内容も参考にしながら、各医療機関において、できるものから速やかに実行するよう改めて求めていくことにしています。

<産業医の機能拡大>

常用労働者が50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられています。

この産業医の役割や権限は、労働安全衛生法などに根拠を置くわけですが、過労死、過労自殺、メンタルヘルス不調などの問題がマスコミで大きく取り上げられてきたことを受けて、産業医の役割を拡大する方向でたびたび法改正が行われています。

特に平成29(2017)年6月には20年ぶりの大改正が行われました。

しかし、産業医が勤務医である場合には、産業医自身の過重労働も問題となります。産業医自身が過労やメンタルヘルス不調に陥っていたのでは、事業場の従業員の健康を確保するどころではなくなってしまいます。

会社の人事部門は、自社の各事業場の産業医と面談を行い、産業医としての業務だけでなく、産業医の抱えている業務全般について許される範囲で内容を把握し、今後産業医としての業務をこなすことに無理が無いかについても検討し、配慮すべきは配慮するといった対応を求められてくるものと思われます。

「医師なのだから、自分の健康は自分で何とかするだろう」と考えるのではなくて、勤務医は自分の仕事を自由に制御できる立場にないことを前提とした対応が、会社側に求められるのです。

 

<専属の産業医>

常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、次に掲げる有害危険業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医を選任しなければなりません。

 

【労働安全衛生規則第13条第1項第2号の有害危険業務】

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務

ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務

ホ 異常気圧下における業務

ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務

ト 重量物の取扱い等重激な業務

チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

リ 坑内における業務

ヌ 深夜業を含む業務

ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務

ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務

ワ 病原体によって汚染のおそれが著しい業務

カ その他厚生労働大臣が定める業務

 

「専属」の産業医であっても、他の仕事を一切受けないということではなく、専属産業医が産業医以外の職務を行っても法的に問題はありません。(平成9年3月31日付通達 基発第214号)

しかし、専属の産業医であれば、その事業場での業務が中心となりますから、選任した事業場は産業医が過重労働に陥らないよう特に配慮が必要となります。

産業医が、労働者の心身の健康管理を行ったり、労働者の健康管理などに関して専門的な立場から指導・助言を行ったりする一方で、企業は産業医の健康に配慮するという良好な関係を維持したいものです。

 

社会保険労務士 柳田 恵一