<特別監察委員会の調査報告書>
毎月勤労統計調査の不適切な事務処理について、統計の専門家、弁護士等の外部有識者で構成される「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」で、事実関係と責任の所在の解明が行われ、厚生労働大臣に調査報告書が提出されました。
平成31(2019)年1月22日、厚生労働省がその内容を公表しています。
これは、延べ69名の職員・元職員に対するヒアリングや関係資料の精査等を踏まえ 、毎月勤労統計調査に関する様々な問題、指摘等について、事実関係とその経緯や背景を明らかにした上で、これ対する責任の所在ついて委員会として評価したものです。
<事実関係の概要>
次のような事実関係が確認されています。
・遅くとも平成8(1996)年以降、調査対象事業所数が公表よりも1割程度少なかった。
・東京都では、規模500人以上の事業所を全数調査とすべきところ、平成16(2004)年1月調査以降は抽出調査としていた。
・3分の1の事業所を抽出して調査した場合、データを3倍して平均値の誤差を減らすべきところ、この処理が行われなかった。
東京都の大規模事業所は、給与・賞与の水準が高いのですが、3分の1しか集計に反映されていないので、毎月勤労統計調査の給与などが実際よりも少なく集計されてしまっていたことになります。
<関係職員の対応などについて>
関係職員の対応とその評価などについて、次のように報告されています。
・課長級職員を含む職員・元職員は、事実を知りながら漫然と「前回同様」の取扱いを続けてきた。
・課長級職員に法令遵守意識が欠如し、部局長級職員も決裁権者としての責任を免れない。
<調査結果の総括>
調査報告書では、次のような総括が示されています。
・常に正確性が求められ、国民生活に大きな影響を及ぼす公的統計で、統計法違反を含む不適切な取扱いが長年継続し、公表数値に影響を与えたことは言語道断。厚生労働省の行政機関としての信頼が失われた。
・統計の正確性や調査方法の開示の重要性など、担当者をはじめ厚生労働省の認識が甘く、専門的な領域として「閉じた」組織の中で、調査統計の変更や実施を担当者任せにする姿勢や安易な前例踏襲主義など、組織としてのガバナンスが欠如。
・統計に携わる職員の意識改革、統計部門の組織の改革とガバナンスの強化、幹部職員を含め、組織をあげて全省的に統計に取り組むための体制の整備等が必要。今後、引き続き具体的な再発防止策等を検討。
企業でも組織が大きくなると、担当者任せや前例踏襲主義が目立ってきます。これを防ぐには、担当者に仕事を任せるときに、その仕事の目的を具体的かつ明確に伝え、目的意識を持たせて「前回同様のやり方で良いのか」を考えさせることが大事です。
<関係者の処分>
今回の不適切な取扱いに関わった担当者や責任者は、1か月から6か月の減給処分(10分の1)、訓告、戒告といった処分を受けています。
民間企業であれば、減給処分について労働基準法の制限を受けますが、公務員ですから6か月にわたって10分の1の減給処分もあるわけです。
【労働基準法による制裁規定の制限】
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。 |
<毎月勤労統計調査の目的>
賃金、労働時間、雇用の変動を明らかにすることが目的です。
統計法に基づき、国の重要な統計調査である基幹統計調査として実施されています。
毎月勤労統計調査の結果は、経済指標の一つとして景気判断や、都道府県の各種政策決定に際しての指針とされるほか、雇用保険や労災保険の給付額を改定する際の資料として、また、民間企業等における給与改正や人件費の算定、人事院勧告の資料とされるなど、国民生活に深く関わっています。
さらに、日本の労働事情を表す資料として海外にも紹介されています。
<回答の義務>
毎月勤労統計調査など、国の重要な統計調査である基幹統計調査について、「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定されています(報告義務)。〔統計法13条〕
また「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」に対して、「50万円以下の罰金に処する」と規定されています。〔統計法61条〕
「統計法」に基づき実施する基幹統計調査である毎月勤労統計調査の報告義務は「個人情報保護法」によっても免除されるものではありません。
たしかに、今回のような事件があると、回答に手間のかかる調査に応じるのは、気の進まないこともあるでしょう。
しかし、回答を拒むのは統計法違反になります。正しい統計が作成されないと、多くの方々に迷惑が及ぶということが、改めて認識されるようになったのですから、なるべく正確な回答を心がけましょう。
社会保険労務士 柳田 恵一