居眠りを繰り返す社員への対応

居眠りを繰り返す社員への対応

<居眠りを見た時の反応>

たまに職場で居眠りしている社員を見ると、思わず微笑んでしまうことがあります。

しかし、これが毎日のように続くと、微笑むどころか怒りに変わってきます。「こんなことが許されるのか」「こちらまで勤労意欲がなくなる」と思えてきます。

上司から厳しく注意して欲しいですし、場合によっては懲戒処分も考えて欲しいとさえ感じるようになります。

 

<懲戒権濫用法理>〔労働契約法第15条〕

しかし、「使用者が労働者を懲戒できる場合」であることを前提としても、次のような条件すべてを満たしていないと、その懲戒処分が無効とされるばかりでなく、会社は損害賠償の責任を負うことになります。

・労働者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。

・事件が起きてから懲戒処分の規定ができたのではないこと。

・過去に懲戒処分の対象とした行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。

・労働者に事情を説明するチャンスを与えていること。

・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。

・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。

<居眠りに対する懲戒処分>

まず、居眠りというのは故意にできることではなく、過失による行為ですから、他の過失行為と同様に軽い処分とせざるを得ません。

また、これまである程度は勤務中の居眠りが黙認されてきたのに、突然、処分の対象とする場合には、居眠りが許されなくなる新たな事情の発生など、それ相当の強い根拠が必要となります。

さらに、居眠りの原因を考えた場合に、健康状態の悪化が関与している場合には、会社の健康管理の一環として、懲戒処分の前に生活面での指導が必要となります。特に体脂肪率が高まると、血液中の二酸化炭素濃度が高まり強い眠気に悩まされたり、自宅で睡眠中に無呼吸症候群の症状があらわれたりして、慢性的な睡眠不足となることもありますから注意が必要です。

個人事業主や取締役であれば「健康管理は自己責任」と言ってのけることもできるでしょうが、労働者の健康については会社の責任が重いのです。

ましてや、過重労働や長時間労働の結果、居眠りが生じたような場合には、会社側に大きな責任がありますから、懲戒処分では何も解決しません。

結論として、居眠りの原因について会社側に落ち度がないかを確認し、居眠り社員に考えられる原因を挙げてもらい、まずは原因をつぶしていく努力をします。それでもなお、居眠り社員の落ち度が客観的に認められるのであれば、注意、厳重注意、始末書をとって反省を促すけん責あたりまでは、懲戒処分もありうると考えます。

 

<幅広い対応を>

きちんとした評価基準があれば、勤務中の居眠りが評価を下げる原因となり、昇進、昇格、昇給、賞与に反映されます。ですから、適正な人事考課制度がない会社は、きちんと構築する必要があるでしょう。

また、1時間、2時間と長時間の居眠りを繰り返すようであれば、居眠り社員と責任者が面談して、欠勤控除の対象となることを説明すべきでしょう。この欠勤控除は、ノーワーク・ノーペイの原則から許されるものですが、計算方法については、就業規則に規定しなければなりません。

さらに、居眠りがひどくて仕事になっていないというケースでは、普通解雇を考えざるを得ないこともあります。

いずれにせよ、最初に懲戒処分を考えるのではなく、その前に検討すべき対応は数多くあるということです。

 

社会保険労務士 柳田 恵一