<ノーワーク・ノーペイの原則>
勤務時間中に営業に出かけ、社有車の中で昼寝をしたとします。その時間の賃金が支給されなくても、常識に照らして仕方のないことだと思います。これは、ノーワーク・ノーペイの原則のあらわれです。
これは「働かなければ賃金は発生しない」という原則です。法令には規定がありません。労働契約の性質から当然に導かれるのです。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します。〔労働契約法第6条〕
つまり、働かなければ賃金が発生しないのは、契約の性質上当然なのです。
<就業規則に規定がないとき>
月給制の従業員について、早退した分の賃金を差し引くか差し引かないか、また、生理休暇をとったらその日の1日分の賃金が減るか減らないか、つまり欠勤控除をするしないについて、法令には規定がありません。
ですから、就業規則の最初のほうに「本規則に定めなきことは労働基準法その他の労働法の定めに従う」と書いてあっても、何も決まっていないことになります。
この場合、労働条件について、法令に基準がないのですから、労使で話し合って決めるしかありません。この労使の合意が労働契約の内容となるのです。
ただし就業規則に規定がなくても、その職場で労使慣行として、欠勤控除があって計算方法も決まっていたり、反対に全く欠勤控除がなかったりすれば、その労使慣行が労使の合意であり、労働契約の共通内容となっているといえます。これは、就業規則に関連規定がもれている状態ですから、就業規則の変更手続きが必要なケースです。
<欠勤控除する・無給扱いの規定・慣行があるとき>
欠勤控除の計算方法に合理性が認められる限り、就業規則の規定は有効です。
さて、たとえばある女性従業員が、生理の重い日に無理をして出勤し、倒れてしまったことを契機として、就業規則を変更して生理休暇を有給に変えるというのはどうでしょうか。
これは、労働者に有利な変更ですから、原則として有効です。普通に就業規則の変更手続きをすればよいだけの話です。
<欠勤控除しない・有給扱いの規定・慣行があるとき>
就業規則上は特に問題がありません。
さて、たとえばある職場で勤務している女性が、全員60歳以上で、しかも生理休暇取得日数が1人あたり年平均30日を超えていたらどうでしょう。男性従業員から、不公平である、不合理であるという話が出て当然かもしれません。
しかし、生理休暇のうち有給扱いにするのを、毎月2日間までに変更するのは、不利益変更にあたります。
あるいは、生理休暇の取得にあたって、業務に耐えられないという医師の証明書を事後でもよいから提出するというルールに変えるのも、不利益変更にあたります。
<就業規則の不利益変更>
たとえ運用が不合理になってしまった就業規則であっても、会社が自由に変更できるわけではありません。
使用者は原則として、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないのです。〔労働契約法第9条〕
就業規則を一部の労働者に不利益に変更するのであれば、不利益となる労働者を中心にきちんと説明をしたうえで、個別に合意を得るのが理想でしょう。
しかし、これができない場合であれば、変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ、就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更による事情に照らして合理的に決められることが必要です。〔労働契約法第10条〕
この条件を満たせば、就業規則の不利益変更も有効となりますが、混乱を生じないためには、労働者にもれなく説明すること、期間的な余裕をもって行うことも大切です。
社会保険労務士 柳田 恵一