<制裁規定の制限>
減給処分の制限として、次の規定があります。
【制裁規定の制限:労働基準法第91条】
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。 |
減給処分について、就業規則に具体的な規定があり、他の適法要件を備えていたとしても、何か一つの不都合な事実に対しては、平均賃金の1日分の半額が限度となります。
そして、この平均賃金の計算方法は法定されています。
たとえば、直近の給与の締日までの3か月で、カレンダー上の日数が91日のとき、この間の給与の総合計が91万円であれば、1日分は1万円、その半額は5千円です。
これが1回の減給処分の限度額です。
また、いくつかの不都合な行為があって、まとめて減給処分をする場合に、給与計算後の月給の支給総額が20万円の人に対しては、10分の1の2万円が限度額になります。
これは、懲戒処分を受けた場合であっても、労働者の生活を守るためです。
<分割払いの減給処分>
たとえば1回の遅刻につき、平均賃金の1日分の半額の減給処分が就業規則に規定されていて、適法に運用されているとします。
この場合、9月に10回遅刻したとすると、
「平均賃金の1日分の半額」× 10 =「平均賃金の5日分」
の減給処分をしたいところ、これでは月給の10分の1を超えてしまいます。
しかし、これを10月から翌年2月までの5回に分けて、平均賃金の1日分ずつ減給することは可能です。
なぜなら、分割払いにすることによって、労働者の生活を守るという法の趣旨に反しなくなるからです。
一括であれば大変な負担でも、法の制限内の金額での分割なら許されるのです。
<会社の現実的な対応>
5か月にわたって、特別な給与計算をするのは面倒です。
また、減給処分の対象者が途中で退職するかもしれません。
この場合でも、制限を超えてまとめて減給することはできません。
そもそも、月に10回も遅刻するというのは異常です。
原因を突き止めたうえで、他の懲戒処分、たとえば、出勤停止なり降格処分なりを考えるべきでしょう。
もっともこれは、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。
あるいは、人事異動や人事考課で対処するというのが、より現実的だと考えられます。
社会保険労務士 柳田 恵一