サービス残業(賃金不払残業)の公表事例

サービス残業(賃金不払残業)の公表事例

<厚生労働省の公表>

厚生労働省は、監督指導による賃金不払残業の是正結果のデータとともに、賃金不払残業の解消のための取組事例を公表しています(平成31年度・令和元年度)。

無作為抽出によって行われた立入調査の事例が1件と、労基署への情報提供によって行われた立入調査の事例が3件示されています。

無作為抽出による立入調査は、特定の業種や重点項目など目的をもって行われるものですから、その企業に監督が入るのは偶然性が高いものです。

これに対して、労基署に情報が入ったために行われる立入調査は、情報の真否を含め実態を確認し、是正を求める目的ですから偶然ではありません。

情報源としては、従業員が疑われやすいのですが、実際には、退職者、取引先、ライバル企業など広い範囲に渡っています。

<タイムカード打刻後の労働>

賃金不払残業の防止を目的として、労基署が立入調査を実施しました。

検査部門の労働者に対し、所定終業時刻にタイムカードを打刻させた後、部品の検査を行わせており、検査した個数に応じて「手当」を支払っていたが、作業に要した時間を確認した結果、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導しました。

タイムカードを打刻させた後で働かせているので、終業時刻の正しい把握・記録ができていません。

社内独自のルールで、残業代に代えて「手当」を支給しているので、正しい時間外割増賃金が計算・支給されていません。

<始業前残業と労働時間の切り捨て>

「タイムカード打刻前の朝礼と車両点検に対して割増賃金が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施しました。

産業廃棄物の収集車の運転者に対し、始業前の朝礼への出席と車両点検を義務づけていたほか、労働時間の算定の際に、1日ごとに30分単位で切り捨て計算を行っており、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導しました。

朝礼への出席や車両点検が、会社から義務づけられていることで、これに必要な時間が労働時間の計算から漏れていて、労働時間の適正な把握・記録ができていません。

賃金の計算にあたって、労働時間の算定は1分単位で行うべきであり、「切り捨て計算」によって賃金不払残業が発生しています。

<自己申告制の不適切な運用>

「残業代が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施しました。

労働者がパソコンに入力する出退勤時刻により労働時間管理を行っていたが、店舗への入退場を管理する静脈認証システムの記録との間にかい離が認められ、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導しました。

労働者が、自己申告制でパソコンに入力していた始業終業の時刻と、店舗に入った時刻、店舗から出た時刻との間に、大きな食い違いがあったため、賃金不払残業が発生していました。

「労働時間適正把握ガイドライン」によれば、労働時間の管理に自己申告制を用いる場合には、使用者が定期的にその正しさを検証しなければなりません。

<固定残業代制度の不適切な運用>

「労働時間が全く把握されておらず、残業代が一切支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施しました。

労働者に対し、月10時間から42時間相当の残業手当を定額で支払っていたが、実際の労働時間を全く把握しておらず、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導しました。

固定残業代制度の下でも、基準となる時間を超えた労働時間に対しては残業代を計算・支給しなければなりません。

実際の労働時間の把握・記録の義務は、免除されませんので注意が必要です。

<労基署の立入調査>

労働者からの聞取り調査を含め、一部の実態調査を行います。

ここで、賃金不払残業の疑いがあると、会社に対して、全体の実態調査を行い報告書を提出するよう求めます。

この報告書に基づき、会社に対して、未払の残業代を支払うよう指導があります。

また、支払った内容についても、労基署への報告が求められます。

労働基準法などの理解が不十分なために、賃金不払残業が発生したのなら、労基署は正しい理解を説明し指導して、会社がこれに従えば良しとします。

しかし、労基署の指導に従わないことで、故意に賃金の不払が行われていたという悪質性が認められます。

ですから、会社が実態調査を行わない、虚偽の報告書を提出する、未払の残業代を支払わないなどの場合には、書類送検の手続がとられることもあるわけです。

労基署の立入調査は、会社を改善するきっかけと捉え、教えを請う態度で望むのが得策といえます。

社会保険労務士 柳田 恵一