「不合理であってはならない」の意味

「不合理であってはならない」の意味

<不合理ではダメ>

パート有期労働法第8条に、「短時間・有期雇用労働者の待遇について、(正社員など)通常の労働者の待遇との間で、不合理と認められる相違を設けてはならない」という趣旨の規定があります(長いので最下部に示しておきます)。

ご存知「同一労働同一賃金」に関連した重要な条文です。

この条文は、「不合理ではダメ」と言っているのであって、「合理的でなければダメ」とは言っていないと説明されます。

日本語としては、どちらも同じ内容を表しているように思えますが、裁判では大きな違いを生じます。

<証明責任>

Aさんが、友人のBさんに、1か月後に返す約束で10万円を貸したのに、1か月経っても返してもらえません。

Aさんは、Bさんを相手に、貸金返還請求訴訟を提起します。

この訴訟でAさんは、Bさんに10万円を貸したという証明をしなければなりません。

これに失敗すると、Aさんは、この訴訟で敗訴してしまうでしょう。

このように、訴訟で証明に失敗すると不利益を被る責任を「証明責任」といいます。

もしAさんが、Bさんとの間で交わした金銭消費貸借契約書を裁判所に証拠として提出したら、今度はBさんが窮地に追い込まれます。

この訴訟でBさんは、Aさんに10万円を返済したという証明をしなければなりません。

これに失敗すると、Bさんは、この訴訟で敗訴してしまうでしょう。

返済については、Bさんが証明責任を負っていることになります。

このように証明責任を分配することによって、「裁判所がどちらを勝たせて良いのか分からず判決を下せない」という事態が発生することを防いでいるのです。

<不合理な待遇差>

パート有期労働法第8条が「不合理ではダメ」と規定していることから、「不合理」の証明責任は労働者側にあるとされます。

労働者側が、待遇差について不合理であることの証明に成功すると、裁判所は事業主側に損害賠償の支払を命ずることができるわけです。

仮に、パート有期労働法第8条が「合理的でなければダメ」と規定し、「合理的」の証明責任を事業主側に負わせていたとすると、事業主側が待遇差について合理的であることの証明に成功しないと賠償責任を負うことになり、酷な結果になってしまいます。

<「不合理」の判断基準>

パート有期労働法第8条の「不合理」の判断基準は何でしょうか。

裁判官個人の「常識」が基準では、裁判によって基準がバラバラになりますし、下される判決の予測もつきません。

むしろ、この法律の目的に適っていれば「合理的」、目的に反していれば「不合理」という基準で、裁判官が法解釈し事件に適用しているものと考えられます。

そして、パート有期労働法の目的は、その第1条に示されている通り「短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与すること」という抽象的なものですから、具体的な基準は、今後の司法判断の積み重ねによって明らかになっていくとみられます。

【短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(略称:パート有期労働法)】

第1条(目的) この法律は、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性が増大していることに鑑み、短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。   第8条(不合理な待遇の禁止) 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

社会保険労務士 柳田 恵一