配転命令権の限界

配転命令権の限界

<配転命令権の根拠>

企業に配置転換を命ずる権利が与えられているのは、適材適所により人材の効率的活用を図り、また、キャリアアップのため多様な能力と経験を積み上げられるようにするためです。

東亜ペイント事件最高裁判決などによると「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができ」、次の条件を満たす場合には、労働者の個別的な同意を得ずに配置転換を命ずることができます。

【同意なく配転命令ができる場合】

1.就業規則、個別労働契約等に、会社は業務上の必要から配置転換を命ずることができる旨の規定があること 2.これらの規定に従い、一定の頻度で実際に配置転換が行われていること 3.対象者について、勤務場所や職種等を限定する合意が無いこと

上記3つの条件のうち、1.と2.は客観的に認定できますが、3.の合意の有無については、しばしば労使で争われることがあります。

裁判では明示の合意があったと認められることが少ないものの、職種の限定について明示の合意が無い場合であっても、医師、看護師、薬剤師、弁護士などの専門職では、黙示の合意があると見るのが自然です。

勤務場所や職種等を限定する合意がある場合には、改めて本人の同意を得たうえで、配置転換を命ずることになります。

<権利濫用法理>

労働契約法には、出向、懲戒、解雇について、権利濫用法理の規定があります。〔労働契約法第14条、第15条、第16条〕

配置転換については、権利濫用法理の規定がありません。

しかし、一般法である民法には、第1条(基本原理)の第3項に「権利の濫用は、これを許さない」という規定があります。

配置転換も労働契約の中で行われる以上、権利の濫用が許されないことは明らかです。

<配転命令権の濫用>

上記【同意なく配転命令ができる場合】に該当していても、配転命令権の濫用となる場合には、配転命令が無効となります。

【配転命令権の濫用となる場合】

1.配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるものである場合 2.業務上の必要が認められない場合 3.不当な動機・目的によるものである場合

上記3つの条件のうち、2.と3.は会社側で把握しうるものですが、労働者から配置転換を拒む理由として主張されることがあります。

1.については、配置転換を内示した後になって、労働者から家庭の状況について説明を受けることが多く、また、配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるか否かの判断が分かれやすいため、紛争となりやすい内容です。

<1.配置転換により労働者の被る家庭生活上の不利益が、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超えるものである場合>

労働者の被る家庭生活上の不利益のうち、育児介護休業法により事業主が配慮すべきとされている事項については、相当程度の配慮が行われ、労働者の不利益が軽減されている必要があります。

しかし、これ以外については、裁判で家庭生活上の不利益が転勤に伴い通常甘受すべき程度のものと認定されることが多いようです。

<2.業務上の必要が認められない場合>

業務上の必要は、基本的には会社の裁量権が大幅に認められます。

したがって、人材の効率的活用を図るでもなく、また、キャリアアップのためでもないことが明らかであるような場合を除き、業務上の必要が認められるでしょう。

<3.不当な動機・目的によるものである場合>

労働者を退職に追い込むための配置転換は、無効とされることが多いといえます。

パワハラでの、過大な要求、過小な要求、隔離に準ずるような配置転換、あるいは、資格・能力・経験を活かせない業務への配置転換は、人事考課やキャリア蓄積の面で不利であり昇格・昇給を遅らせる可能性が高いため、嫌がらせ配転であると解されることが多いといえます。

<実務的な視点から>

配転命令の正当性について、多角的に検討したうえで、内示するというのは不効率だと思われます。

むしろ配置転換を打診し、対象者が拒否的な態度を示したら、その言い分に耳を傾け、一度話を持ち帰り、問題が無いと判断したならば説明・説得にあたるのが得策だと考えます。

社会保険労務士 柳田 恵一