正社員なのに昇給しないのはおかしいのか 

正社員なのに昇給しないのはおかしいのか 

<最低賃金の引上げ>

最低賃金が年々引き上げられ、事業規模に関わらず、賃金上昇圧力が高まっています。

令和2(2020)年10月は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、たとえば東京都では1,013円に据え置かれましたが、令和3(2021)年10月には1,041円へと引上げが再開されています。

こうして東京都の最低賃金は、この5年間だけを見ても932円から1,041円へと約11.7%上昇しています。

特に、小売業、製造業、清掃業、警備業などでは、最低賃金付近の時給で勤務している非正規社員が多いことから、最低賃金の急上昇が人件費の増加につながっています。

今年の10月に新規に東京都で採用されたパート社員の時給は、最低でも1,041円ですから、昨年、一昨年に採用されたパート社員は、更に高い時給でなければなかなか納得してもらえません。

最低賃金未満で働いていたパート社員の時給を、最低賃金に引き上げれば済むということではないのです。

<正社員の昇給>

厚生労働省が令和3(2021)年3月31日に公表した「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者(正社員)の月額賃金は、令和2年が307.7千円、5年前の平成27年が304.0千円、10年前の平成22年が296.2千円となっています。

令和2年の数値の出し方は、従来と変更されているので正確ではありませんが、単純計算では5年間で1.2%、10年間で3.9%の上昇と低い伸びに留まっています。

<正社員の不満>

正社員のうち数値管理の役割を担う管理職は、自部署の正社員・非正規社員の賃金の伸び率を把握していますので、非正規社員に対して正社員の昇給率が低いという実感を持ちやすいわけです。

昭和時代の感覚で言えば、「正社員は給与が高く、賞与や退職金も出る。パート社員の賃金が低く、賞与や退職金が出ないのは、パート社員として雇われたのだから当然だ」ということになります。

この感覚からすると、正社員と非正規社員とで、年収の差が縮まるのはおかしいということになります。

正社員なのに毎年思うように昇給していかないのはおかしい」とも感じるわけです。

<同一労働同一賃金の考え方>

民法の「契約自由の原則」の趣旨を踏まえて、労働契約の締結を自由に任せておいたところ、正規労働者と非正規労働者との間で、不合理と見られる待遇差が増えてしまったという不都合が生じました。

原因としては、非正規労働者が使用者との間で労働契約の内容を決定する場合に、かなり弱い立場にあって、自由な交渉が大きく制限されているという実態が浮かび上がります。

つまり、当事者の対等な立場での交渉を前提とする「契約自由の原則」は、非正規労働者には当てはまらないのに、当てはまるものとして放置されてきたことに対する反省から、この待遇差を是正するために「同一労働同一賃金」が法制化されました。

改正前の労働契約法第20条や、現行のパートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条・第9条にその趣旨が示されています。

正規労働者・非正規労働者の区分がある以上、その間の格差は当然に存在するものであることは認め、不合理な差別とならないように均衡を求める趣旨となっています。

具体的には、担当する職務の内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容と配置の変更の範囲(職種の変更、昇進、転勤など)、その他の事情(正社員登用制度の実績など)を総合的に比較したうえで、個別の賞与、退職金、手当、休暇などに不合理な差別が無いかを検討する形になります。

こうして、「正社員は給与が高く、賞与や退職金も出る。パート社員の賃金が低く、賞与や退職金が出ないのは、パート社員として雇われたのだから当然だ」という昭和時代の感覚は否定されているわけです。

<働き方改革の視点から>

同一労働同一賃金は、働き方改革の一環で導入されました。

正社員と非正規社員との待遇差が不合理なものであってはならないというのは、正社員の待遇を引き下げて非正規社員並みにすれば良いということではありません。

非正規社員の待遇を引き上げて、非正規社員であっても安心して結婚し子供を育てられる日本にしようという、少子化対策の趣旨も込められています。

最低賃金の急速な引上げも、こうした少子化対策の趣旨に沿ってのことです。

「正社員なのに毎年思うように昇給していかない」のも、政府の推進する働き方改革の流れの中で、その意味を受け止めなければならないわけです。

社会保険労務士 柳田 恵一