防止対策が進まないうちにパワハラが発生してしまったら

防止対策が進まないうちにパワハラが発生してしまったら

<事業主の防止対策>

事業主は、10段階に分けて考えると、以下の措置を講じる義務を負っています。

●パワーハラスメントが発生する前に

1.職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

2.行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

3.相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

4.相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

●パワーハラスメントが発生してしまったら

5.事実関係を迅速かつ正確に確認すること

6.速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

7.事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと

8.再発防止に向けた措置を講ずること

●並行して行うこと

9.相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること

10.相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

<体制の構築状況>

パワハラ防止対策が法定されてから、それほど長い期間が経過しているわけではありません。

パワーハラスメントが発生する前に整えておくべき体制が整わぬまま、問題が発生するということは十分に考えられます。

この場合に、改正法施行前に通用した対応をしてしまうと、思わぬ落とし穴に落ちてしまいます。

<法改正前に当たり前に行われていたこと>

かつては、パワハラ被害の申し出があったなら事実を確認し、事実の有無と内容に応じて、加害者に懲戒を行い異動するなど適切な措置を取ることで、会社の責任を果たすことができました。

これによっても回復されない損害については、別途、被害者や遺族から加害者・会社・取締役に損害賠償の請求が行われることはありました。

<法改正後の事情変更>

事業主はまず、労働者にパワハラの内容とパワハラを行ってはならないことの周知・啓発をしなければならないわけです。

ところが実際には、何がパワハラかを知らず、自分の行為がパワハラに該当することを知らぬまま、パワハラの加害者であると告発される従業員がいます。

この場合に、加害者の自己責任とはできなくなりました。

確かにパワハラ防止法は、「労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない」としていますが、これは努める義務であり、努力義務に過ぎません。

一方で、パワハラ防止法が事業主に課しているパワハラ防止対策は法的義務ですから、労働者の努力義務を理由に、法的義務を免れることはできません。

加害者が、パワハラについての十分な知識を持ち合わせぬまま、行為に及んでしまったなら、会社の責任が重いということになります。

<実務の視点から>

パワハラ防止対策が進まないうちに、パワハラの事実が発生したなら、少なくともその部門でのパワハラ教育を直ちに行う必要があります。

それでもなお、加害者がパワハラ行為を止めないのであれば、会社はその加害者に指導することができます。

こうした手順を意識せずに、法改正前の対応をとってしまうと、思わぬ痛手を被りますので注意しましょう。

社会保険労務士 柳田 恵一