個別労働紛争解決制度の事例(東京都令和3年度)

個別労働紛争解決制度の事例(東京都令和3年度)

<個別労働紛争解決制度の施行状況公表>

東京労働局は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく個別労働紛争の解決を図る制度(総合労働相談、助言・指導、あっせん)を施行しています。

また、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」、「パートタイム・有期雇用労働法」、「パートタイム労働法」、「労働施策総合推進法」に基づく個別労働紛争の解決を図る制度(援助(助言・指導)、調停)を施行しています。

令和4(2022)年7月21日、東京労働局が個別労働紛争解決制度に関する令和3(2021)年度の施行状況を取りまとめ公表しました。

これによると、「いじめ・嫌がらせ」関連の相談が9年連続で最も多いことが分かります。

企業のハラスメント対策は、継続的に強化されていく必要が感じられます。

<令和3年度の解決事例>

今回の公表では、各種統計データの他、具体的な解決事例も示されており、これは全ての企業に参考となるため、以下に6つのケースをご紹介させていただきます。

<労働条件引き下げのケース>

申出人(労働者)は年俸制で勤務していましたが、能力不足を理由に会社から異動の辞令を受けました。

賃金額についても、異動により職務が変更になったためとの理由で10%減額されました。

賃金額は年俸制により定まっていたことから、申出人は減額を認めない旨を会社に通知しましたが、会社が応じないため助言を求めたものです。

労働局は会社に対し、年俸制の賃金額を年度途中で一方的に引き下げることは契約違反であり、労働契約変更には労働契約法第8条により当事者間の合意が必要であることを説明しました。

そして、合意が得られない現状を踏まえ、会社に対し適切な話し合いを申出人と行うよう助言しました。

会社は、労働局の助言を受け、申出人と話し合いを行った結果、減額通知を撤回し、賃金額を元に戻しました。

<雇止めのケース>

申請人(労働者)は1年の有期契約で勤務していましたが、令和3年4月の契約期間満了に伴い、会社から雇用契約を終了するとの通知を受けました。

会社の説明によると、取引先から契約を打ち切られたため雇止めするとのことでした。

しかし、会社が新規に人材募集をしていたため、申請人は納得できず、会社に契約更新を申し出ましたが拒否されました。

そこで、申請人は経済的損害の補償・慰謝料を求めて、あっせんを申請しました。

会社は、「取引先から契約を打ち切られたことは事実であり、新たに募集している職種は申請人が担当していた職種と全く異なるものであることから、申請人の契約を更新しなかったものである」と主張しました。

あっせん委員は、雇止めの通知が契約満了直前であったこと、雇止めの理由が会社都合であったこと、紛争の長期化による時間的・経済的損失等を説明した上で会社に再考を促したところ、会社は円満解決のため解決金を支払う意向を示しました。

その結果、会社から申請人に対して賃金2か月相当分の解決金を支払うことで合意が成立しました。

<降格と減給のケース>

申立者(マネージャー職の女性)が育児休業を取得したところ、復帰にあたり、一般職に降格され、減給となりました。

申立者は、降格の撤回と給与を育児休業前の水準に戻すことを求め、労働局に援助を申し立てました。

事業主は、「マネージャーのポストには別の労働者が就いているため申立者を育休前のポストに戻すことはできず、ポストに応じた賃金を払っている結果として減給となっているに過ぎない」と主張しました。

労働局から事業主に対し、育児・介護休業法上、育児休業を取得した労働者が復職することを前提とした雇用管理が求められることなど、育児休業取得を理由とする降格等不利益取扱いの禁止について説明し、法と法の趣旨に沿った対応をするよう助言しました。

事業主が降格を撤回し、給与を育休前の水準に戻すことになりました。

<同一労働同一賃金に反する不合理な待遇差のケース>

申請人(パートタイム労働者)が、正社員との間で夏季休暇、記念日休暇など様々な待遇について相違があることは、パートタイム労働者であることを理由とする不合理な待遇差であるから、待遇の改善を求めたいとして調停申請を行いました。

事業主は、それぞれの待遇差の理由の合理性について主張したものの、パートタイム労働者の待遇については前向きに改善していくとの姿勢が示されました。

調停委員は、双方の主張を踏まえ、双方が合意できる解決案の調整を行ったところ、一部の休暇について正社員と同様の措置を講じることで合意が成立しました。

<妊娠の報告後に会社から退職を強要されたケース>

申立者(女性労働者)が、第1子の育児休業中に第2子を妊娠し、事業主に報告しました。

そして、第2子についても、産前産後休業と育児休業を取得したいと事業主に伝えたところ、度々、メールにより退職勧奨を受け、話し合いに応じてもらえなくなったことから、継続就業を求める援助を申し出ました。

労働局は事業主に対し、「妊娠報告を契機として退職強要を行った場合は、原則として男女雇用機会均等法違反となること」を説明し、申立者の要望どおり対応するよう指導しました。

事業主は、申立者の要望のとおり、申立者を継続就業させ、第2子の産前産後休業・育児休業を取得させることにしました。

<パワハラにより退職せざるを得なくなったケース>

申請人(労働者)は、勤務先の先輩から度重なるパワーハラスメントを受けたため、本社の次長へ相談しましたが、次長はパワハラの事実確認をせず、職場環境の改善に努めることはありませんでした。

その後も、会社のパワハラに対する措置が不十分であったため、職場環境は改善されなかったことにより、申請人は退職せざるを得なくなったことから、経済的損失などの解決金の支払いを求めて調停を申請しました。

会社は、「パワハラの相談を受けて、速やかに勤務先の責任者が当事者に調査と注意を行い、申請人に対する先輩の指導は業務上必要な範囲であり、パワハラには該当しないと判断した」と主張しました。

調停委員は、会社には一定のパワハラ防止措置が講じられているが、十分に機能しているとはいえないこと、安易にパワハラに該当しないと判断したことも適切とはいえないことから、紛争の長期化による損失を考慮して解決するよう促したところ、会社側は慰謝料を支払うつもりはないが解決金支払については検討していると申し出ました。

調整の結果、会社はパワハラ防止措置が十分でなかったことを認め、申請人に解決金を支払うことで当事者間での和解が成立しました。

<実務の視点から>

6つのケースは、いずれも労働者側の主張が容れられる形で解決しています。

どの事案でも訴訟となれば、ほぼ同内容の判決が出される可能性が高く、和解せずにあえて訴訟に持ち込めば、無駄な時間、労力、人件費、精神力を浪費することが想定されます。

労働局からも、こうしたことについて丁寧な説明があったものと思われます。

社会保険労務士 柳田 恵一