<緊急対応と不正受給>
新型コロナウイルス感染症拡大の緊急事態を受け、雇用調整助成金の特例が設けられ、困窮する事業主への速やかな支給を旨として、簡易な申請に対する速やかな給付が行われました。
これと同時に、不正受給への対応は事後的に行う旨のアナウンスが行われましたが、世間では「どうせチェックしきれないだろう」ということで、不正受給が横行したことも事実です。
<不正受給への警告>
不正受給は「刑法第246条の詐欺罪」等に問われる可能性があるということを含め、当初より繰り返し警告が発せられていました。
・都道府県労働局が、事前予告なしの現地調査を行い、不正受給した事業所名等を積極的に公表します。
・ 不正「指南役」の氏名等も公表の対象となる場合があります。
・「不正発生日を含む期間以降の全額」+「不正受給額の2割相当額」(ペナルティ)+「延滞金」の合計額を返還請求します。
・雇用調整助成金だけでなく、他の雇用関係助成金も5年間の不支給措置となります。
・都道府県労働局は、不正受給対応について、都道府県警察本部との連携を強化しています。
・悪質な場合、捜査機関に対し刑事告発を行います。
<会計検査院の動き>
令和4(2022)年8月4日、会計検査院は、 厚生労働大臣宛てに同日付で「雇用調整助成金等及び休業支援金等の支給に関する事後確認の実施について」により、雇用調整助成金等および休業支援金等の事後確認に関する是正要求を行いました。
これは、雇用調整助成金等の不正受給対策として行われる労働局の実地調査について、検査(令和2、3両年度に支給決定された雇用調整助成金等・休業支援金等計5兆7,888億3,640万余円を対象)した結果、33労働局計3億1,719万円について重複支給や二重支給、また不正受給が確認されたことを受け、次のような是正要求がなされています。
1.休業支援金等の不正受給が疑われる場合以外についても保有データを活用するなどして事後確認の一環として重複支給の有無を確認する。
2.重複支給が見受けられた事業主やそれらの事業主に雇用されていた労働者において重複支給に係るものとは別に同様の態様等により不正受給が行われていないかという点にも留意して調査を行う。
3.既に重複支給が確認された雇調金等について事実関係を特定して不正受給額の返還措置を講ずること。
4.保有データを活用するなどして事後確認の一環として二重支給の有無を確認する。
5.既に二重支給が確認された休業支援金等について不適正な支給額を特定して返還措置を講ずること。
6.不正な支給申請を行うリスクの所在等に十分に留意して実地調査の対象とする事業主(令和4年3月末時点では3,922事業主が選定リストに掲載)の範囲を設定することとする見直しを行い、その具体的な方法を策定する。
<実務の視点から>
不正受給が横行すれば、雇用保険の料率が余計に上昇します。
令和4(2022)年度は、2段階で料率が上がります。
不正受給の摘発は、料率の上昇に歯止めをかける役割を果たしますので、正しく手続している企業にとっては、歓迎すべき動きです。
社会保険労務士 柳田 恵一