通勤経路の不正

通勤経路の不正

<住所の不正>

従業員は、入社にあたって、会社に住所を届け出ます。

この時点で、実際の住所と住民票上の住所が異なっていることがあります。

この場合、速やかに住民票を移して、正しい住所を届け出れば良いのですが、住民票を移さずに、住民票上の住所を現住所として届け出ることがあります。

また、入社時に届け出た住所から転居しても、住民票を移さずに、住所変更の届け出を怠ることもあります。

これらの場合には、住所が不正ですから、多くの場合、通勤手当の不正受給が発生します。

それだけでなく、健康保険や厚生年金保険の住所も不正となりますし、住民税の支払いや選挙権の行使についても不正が発生してしまいます。

<通勤手当の不正受給>

たとえば、モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、次のように規定しています。

【通勤手当】

第34条  通勤手当は、月額    円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

実際の住所が、会社に届け出ている住所よりも会社に近ければ、会社には遠距離のルートで通勤していることにして高い通勤手当を申請し、実際には近距離のルートで通勤し実費との差額を着服していることもありえます。

住所の届け出が正しい場合でも、通勤ルートを偽っていれば、実際にかかっている通勤の費用よりも高い通勤手当を受給していることもあります。

これらの場合、会社は差額の返金を求めることができますし、故意に行っていれば、懲戒処分の対象ともなりうる行為です。

また、就業規則で「実費」を支給すると定めてあれば、電車通勤で申請しておいて、実際には徒歩や自転車による通勤をした場合には、通勤手当の全額が不正受給となりえます。

ただ、徒歩や自転車による通勤は健康増進の点で望ましいと考えるのであれば、「実費」の所を「一般的な経費」として定めておいて、支給してしまうことも可能です。

それでも、この場合には課税の問題が出てきます。

さらに稀ですが、電車の運賃が値下げされることもあります。

この場合には、本人の届け出を待たず、会社の方で通勤手当を変更し、本人に通知するルールにしておくことが考えられます。

<通勤災害の手続き>

次のような通勤災害についても、通常の労災と同じ基準で労災保険が適用されます。

・会社への申請と異なる経路で通勤していた時のケガ

・会社への申請と異なる交通機関を利用して通勤していた時のケガ

・会社がバイク通勤を禁止しているのにバイクで通勤し転倒した時のケガ

ただし、不合理な寄り道や遠回りは、通常の労災と同じく労災保険の適用対象外となります。

たしかに、住所や通勤について偽っていたこと自体は咎められることです。

しかし、労災保険は政府が管掌する制度ですから、会社のルールによって労災保険の適用範囲を制限したり広げたりはできません。

これらの場合には、正しい住所を基準として手続きを行うことになります。

社会保険労務士 柳田 恵一